音ノ音 -Notes of Tone-

モノを通して綴る、日常のキロク

『食通しつたかぶり(2010)』: 食い道楽の美しい文章

どのようにしてこの本を読むことになったのか…

昨今の外出自粛ムードで、読書に精を出そう、とkindleを開いて、おすすめに出てきたものをダウンロードした…気がするのですが。

だとすれば、何たる幸運!

Kindle読了後に文庫版を購入してしまう程、私はこの本に魅了されました。

食通知つたかぶり (文春文庫)

食通知つたかぶり (文春文庫)

 

私は子どもの頃から、大の読書嫌い。

この『食通しつたかぶり』の丸谷才一氏についても存じ上げませんでした。

 

最近、仕事で言葉に触れることが多く*、改めてわかりやすく、それでいて品よくセンスよく伝えることの難しさを感じています。

*仕事は飲食関係のマーケティング&PR

 

文体は少し古風なので、慣れるのに時間がかかりますが、慣れてしまえば全く気にならない、というか文体こそがこの本の「味」な気すらしてくるから不思議なものです。

 

この本は、丸谷才一氏が40年程前に書いた、当時のグルメ紀行・エッセイ。

約60店ほどが紹介されている(らしい*)のですが、調べてみると、今も営業しているお店がいくつもあり、思わず「食べログ」で検索しながら読んでしまいました。

*少々手間がかかるので、自分では数えてません!

もちろん、いくつかは「行ってみたいお店」にリストアップ!

 

40年前から今に受け継がれる、伝統のお店を知ることができるだけでも、一読の価値あり!

それ以上に、作中で紹介される料理についての、実に多彩な表現。

あの手、この手で表現される料理の数々は、本当に想像力が掻き立てられます。

 

お店は、多くの場合、その土地に縁がある人(錚々たる面々)に聞いて紹介をしてもらう、という形式。

また、お店を訪問する際は同伴者がいることも多く、彼らと交わす会話も、実にウィットに富んでいて、面白い。

同伴者がいる場合は、いわゆる「一流」の方々が行く有名店(料亭のような)が多く、現存していても、ちゃんと予約をして、きちんとした身だしなみで、ちょっと特別な機会でもないと行けなさそうなお店ばかり。

お料理に関しても、品格のあるお上品な感じで、本当に食についての並外れた知識があってこその文章で、私が今(仕事で)必要なのは、こういった品のある語彙で多彩な表現をすることなんだよな…なんて思ったりしました。

 

それとは別に、丸谷氏が一人で訪問するローカルなお店のエピソードや、ローカルな食文化についてのウンチクが、より一層面白い、というか興味深い。

戦後二大ネーミングといふものがある。サツポロ・ラーメンと讃岐うどんがそれで、あれがもし、北海道ラーメンと高松うどんだったら、今日のやうに天下を制圧することは不可能であつたらう。ラーメンの片仮名に合わせてサツポロとこれも片仮名(この場合、サツポロ・ビールが微妙に作用している)で行つたからよかつたし、平安初期以来、讃岐米がうまいといふ評判があるせいで、それなら、うどんもまたいいにちがひないと考えてしまふわけなのだ。

*1

こんなことを考えながら、四国でうどん屋をめぐる人、いないと思います。

 

時々、ちょっと辛辣なコメントもあるのですが、別に批判をしているわけではなく、「個人的な感想」をボソッといっている(ような)体で書かれているのも、またいい。

 

 

 

それにしても、丸谷氏、本当によく食べて、よく飲む!

この豪快な食べっぷり・飲みっぷりこそが、私がこの本を気に入ったワケなのかもしれません。

*1:『四国遍路はウドンで終る』より